金融研究 第22巻第1号 (2003年3月発行)

非会計情報の開示の意義と開示規制のあり方

古市峰子

 近年、財務諸表によって提供される会計情報の業績評価や投資意思決定における有用性が相対的に低下しているとの認識が強まる中、会計情報以外の情報(非会計情報)の開示に対するニーズが飛躍的に高まっている。他方で、非会計情報については、経営者にとって都合のよい情報ばかりが開示されたり、理解可能性や比較可能性に劣る情報が増えて、かえって利害関係者が混乱する可能性も指摘されている。
 本稿では、こうした状況を踏まえて、非会計情報の開示につき経営者の裁量をどこまで認めるのが妥当かという問題について、整理・検討している。
 その結果として、まず、経営者の自発的開示にかかるインセンティブは多様かつ状況により変わり得るため、開示された情報の背後にあるインセンティブを特定することは極めて困難であること、財務的に追い込まれた企業は適切な情報を開示しない傾向が強まること等を指摘している。そして、これらの点を踏まえると、(1)投資家による業績評価や意思決定にとって重要性が高く、かつ会計情報と補完関係にある非会計情報については、市場規律とのバランスをとりつつも、ディスクロージャー制度の枠組みに取り込むことによって開示規制の対象とするのが妥当と考えられること、(2)その場合、開示の具体的な内容・方法については経営者の裁量に委ねつつ、信頼性を高める措置を同時にとるといった方向性が望ましいこと等を主張している。

キーワード:非会計情報、ディスクロージャー制度、経営者の裁量、自発的開示


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