金融研究 第21巻第3号 (2002年9月発行)

日本における財政政策のインパクト
─1990年代のイベント・スタディ─

福田慎一、計聡

 本稿では、イベント・スタディの観点から、経済対策決定のニュースが株価、為替レート、長期利子率に与えたインパクトを計測し、財政赤字の累積が1990年代に実施された財政政策の影響をどのように変化させたかを検証する。資産市場のデータはきわめて頻度が高いものが入手可能であるばかりでなく、ニュースに対する反応も瞬時になされる。したがって、イベント・スタディは、1990年代を通じて何度も行われた財政支出拡大に関するニュースがいかなるインパクトを日本経済に与えたかを考察するうえで有用なアプローチと考えられる。
 本稿の分析で明らかにされる主な結果は、1990年代を通じた財政支出拡大のインパクトが1990年代前半と後半で大きく異なっていたという点である。すなわち、1990年代の前半では、財政支出拡大のアナウンスメントは、株価を大きく上昇させ、為替レートを円高に導くなど、その影響をポジティブに評価する市場の反応が顕著であった。しかし、1990年代半ば以降になると、大幅な財政支出拡大が決定されても、株価が大きく上昇することはまれとなり、1990年代末には、有意性は低いが、長期利子率の上昇や為替レートの下落(円安)が政策決定後に観察された。これらの結果は、1990年代を通じて財政赤字の累積が顕在化するにつれて、マーケットが政府の予算制約を通じた財政拡大のマイナス面を大きく認識するようになり、それによって財政のインパクトも大きく低下したことを示唆しており、非ケインズ効果の考え方と整合的である。また、1990年代末の反応は、物価の財政理論(FTPL)が想定する状況とも矛盾しなかった。ただし、長期金利の上昇や円安の統計的有意性は低く、実証結果は必ずしも物価の財政理論の妥当性を強く支持するものではなかった。

キーワード:財政赤字、イベント・スタディ、非ケインズ効果、物価の財政理論(FTPL)


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