金融研究 第20巻第4号 (2001年12月発行)

通貨危機後の東アジアの通貨制度

福田慎一、計聡

 通貨危機後に変動相場制へ移行した東アジア諸国では、一時は日本円と強い相関があった為替レートが、1998年末以降、米ドルと再び非常に強い相関を持ち始めている。しかしながら、この時期、マレーシアを例外とすれば、これらの国々でそれほどドラスティックな通貨制度の変更は報告されていない。そこで本稿では、通貨危機後の短い期間に、なぜこれら東アジア各国の為替レートの連動性が、大きな通貨制度の変更を伴うこともなく、大きく変化したのかを分析する。分析の結果、シンガポールとタイの為替レートは、マレーシアが固定相場制へ移行した1998年9月を境に、日本円との連動性がドラスティックに小さくなったことが示される。この結果は、マレーシアとの経済的結びつきが強いシンガポールやタイでは、マレーシアが固定相場制へ移行したことによって、為替レートが再び米ドルと非常に強い相関を持つようになったことを示している。
 本稿では、また、通貨危機後、東アジア諸国における通貨の連動性の変容が、東南アジアにおける円の国際化の現状にどのような影響を及ぼしたかを、決済通貨動向や為替取引の動向をみることによって考察する。分析の結果、通貨危機後に、円建ての決済が進展したという傾向はほとんど観察されず、為替取引でも円の国際化の進展を結論づけるものではなかった。この結果は、東アジア諸国において円の国際化は、長期的には1つの選択肢となりえても、それまでの道のりは容易でないことを示唆している。

キーワード:東アジアの通貨危機、通貨制度、バスケット・ペッグ、円の国際化


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