金融研究 第20巻第2号  (2001年4月発行)

バリュー・アット・リスクのリスク指標としての妥当性について
―理論的サーベイによる期待ショートフォールとの比較分析―

山井康浩、吉羽要直

 バリュー・アット・リスク(以下、VaR)は、金融機関のリスク管理実務で最も標準的なリスク指標となっている。しかし、そのリスク指標としての妥当性に関しては、学界から定義上・理論上の問題点(損益額分布の形状によっては、(1)VaRが信頼区間外のリスクを捉えられないこと、(2)VaRが劣加法性を満たさないこと)が指摘されている。こうした中、VaRが抱えるこれらの問題点を内包しないリスク指標として、期待ショートフォールという概念が提唱されている。
 本稿は、VaRと期待ショートフォールとの比較分析に関するこれまでの研究成果を、特にVaRが信頼区間外のリスクを捉えられない問題点(テイル・リスク)に焦点を当て、具体的な数値例を用いて解説する。ここでは、VaRがミスリーディングな情報を投資家に与え、期待効用を最大化する投資家に信頼区間外における損失がより大きくなるポジションをとるインセンティヴを与える可能性があることが示される。一方、期待ショートフォールはこうした問題を内包せず概念上VaRよりも優れたリスク指標であることが示される。
 もっとも、期待ショートフォールの応用に際しては、推計値の安定性確保やバックテスティング手法の確立といった課題が残されていることから、今後も当面はリスク管理実務においてVaRが中心的役割を果たしていくと考えられる。VaRをリスク指標として用いる場合はその問題点が顕著となる状況に特に注意し、デスク・レベルでの肌目細かいリスク管理や与信集中度合いの把握・制限などの補完的対応を図ることによりリスク・プロファイルの把握に努めることが重要となる。

キーワード:バリュー・アット・リスク、期待ショートフォール、テイル・リスク、劣加法性


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