金融研究 第20巻第1号 (2001年1月発行)

信託のパス・スルー課税について
―FASIT 導入に至るまでの米国の導管制度を参考に―

林麻里子

 わが国の税制上、信託財産から生ずる所得はパス・スルー課税され、信託あるいは受託者のレベルで独立に課税されることはない。本稿は、こうした信託のパス・スルー課税に関する制度の理論的根拠および問題点について、米国の制度を参考に検討したものである。
 本稿では、まず、わが国の信託税制を概観したうえで、その問題点として、(1)同じ事業について信託を利用する場合と法人を利用する場合があるとすると、税制の公平性・中立性の観点から、信託税制と法人税制の関係が問題となり得ること、(2)信託の課税ルールの適用に当たり、受益者が信託財産を「実質的に所有していること」が要件とされる場合があり、これが信託を利用した取引に対する事実上の制約要因となっているように窺われること、および、(3)信託の課税の仕組みが課税の繰延べに対して無防備となっている面があること等を指摘する。
 次に、米国の信託税制およびサブ・チャプターMの「導管」制度の変遷を概観し、州法上の信託を租税法上の「導管」として認める際の理論的根拠が、信託を利用した経済活動の「受動性」、および、課税繰延べや回避の可否等と関係付けられてきた点を紹介する。
 最後に、米国の制度がわが国にいかなる示唆を与えるものであるかを検討し、そのうえで、(1)信託税制と法人税制の公平性・中立性の問題については、「受動性」の基準を含め3つの考え方があり得るが、いずれを採用する場合でも留意すべき問題点があること、および、(2)信託を租税法上の「導管」として扱うべき場合には、信託が課税繰延べ等に利用されないようにする必要があること、を指摘する。

キーワード:信託、租税法、法人税、パス・スルー、導管性


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