金融研究 第19巻別冊第2号  (2000年9月発行)

与信ポートフォリオにおける信用リスクの簡便な算出方法

家田明、丸茂幸平、吉羽要直

 与信ポートフォリオの信用リスク管理においては、バリュー・アット・リスクの枠組みで最大損失額を求めることが一般的であり、その際大規模なモンテカルロ・シミュレーションによって対応することが多い。しかしながら、こうしたシミュレーションには計算負荷が重いという問題がある。本稿では、こうした問題意識の下、シミュレーション負荷を抑え、近似的に最大損失額を算出する簡便な手法を提示し、計算例を示す。
 具体的には、ポートフォリオを格付ごとのサブポートフォリオに分け、サブポートフォリオの最大損失額を算出する。ここでは、サブポートフォリオの構成によって、その最大損失額と標準偏差との比があまり変動しないと仮定する。そこで、各エクスポージャーの金額が等しいサブポートフォリオ(均一サブポートフォリオ)を考える。標準偏差については、リスク計測の対象となるサブポートフォリオについても均一サブポートフォリオについても簡単な演算で求められる。また、均一サブポートフォリオの最大損失額についてはシミュレーションによらず解析的に求めることができる。したがって、リスク計測対象サブポートフォリオの最大損失額は、均一サブポートフォリオの最大損失額と標準偏差の比にリスク計測対象サブポートフォリオの標準偏差を乗じることにより近似的に算出することができる。シミュレーション例により、極端な大口エクスポージャーが存在するような場合を除いて、この近似手法は有効であることが確認できる。また、サブポートフォリオの最大損失額の合計から与信ポートフォリオ全体の最大損失額を求める手法についても述べる。

キーワード:信用リスク、与信ポートフォリオ、モンテカルロ・シミュレーション、与信の集中・分散、デフォルト事象の相関


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