本稿では、モデル・リスクをプライシング・モデルの場合とリスク計測モデルの場合について分け、①プライシング・モデルでは、「市場価格を的確に表現できないモデルや市場の主流ではないモデルを使うことによって、損失を被るリスク」、②リスク計測モデルでは、「将来被る損失の可能性を誤って評価するリスク」と定義する。その上で、具体例や数値計算例を用いて、モデル・リスクの源泉を探り、対応策を検討する。
モデル・リスクの源泉としては、プライシング・モデルについては、①モデルの仮定の誤り、②パラメータ推定誤差、③離散化等によって生じる誤差、④市場データの誤差等が挙げられる。一方、リスク計測モデルについては、①モデルで仮定されている分布と実際の分布との乖離、②モデル全体のフレーム・ワークに関するロジックの誤り等が挙げられる。
モデル・リスクへの実務的な対応として、定性的な面では、管理体制(組織・権限・人材等)の強化が挙げられる。また、定量的な対応としては、プライシング・モデルでは、異なるモデルによるプライシングの格差を引当金として計上すること、リスク計測モデルでは、リスク・ファクターの変動にさまざまなパターンを想定したシナリオ分析を行うことやシナリオ分析で得られた情報を基にポジション・リミットを設定すること等が考えられる。
キーワード:モデル・リスク、プライシング・モデル、リスク計測モデル、管理体制、引当金、シナリオ分析、ポジション・リミット
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