金融研究 第19巻第4号 (2000年12月発行)

金利非負制約下における追加的金融緩和策:
日本の経験を踏まえた論点整理

翁邦雄、小田信之

 本稿は、日本における約1年半のゼロ金利政策の経験を踏まえ、ゼロ金利下での金融政策を巡る各種の問題を検討する。まずゼロ金利政策導入前後の金融市場動向を振り返った後、名目金利ゼロ下での金融政策の波及メカニズムを整理し、仮に追加的な金融緩和を行う必要がある場合にどのような政策の選択肢があり得るかを考察する。具体的には、効果が比較的限られているもののフィージビリティが高くコストないしリスクが小さい方法として、政策アナウンスの具体化を挙げる。一方、中・長期国債の買切りオペ増額や一時的な「固定」為替相場制度の導入については、大掛かりに実施すれば比較的大きな効果が得られるものの、効果に不確実性が大きいうえ、コストないしリスクも大きい可能性があることを指摘する。
 さらに、ゼロ金利下でのインフレーション・ターゲティング導入の是非についても考察する。インフレーション・ターゲティングを金融政策運営の枠組みの1つと位置づけたときに、総合判断に基づく伝統的な政策運営との区分けが必ずしも容易ではないことを整理したうえ、日本での最近の論調等を踏まえると、ゼロ金利下で本来のインフレーション・ターゲティングのメリットを享受する環境が整わないままでは、金融政策遂行の柔軟性が阻害される可能性が無視できないことを議論する。

キーワード:金融政策、ゼロ金利、長期金利、国債買切りオペ、為替介入、インフレーション・ターゲティング


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