本稿は、バブル崩壊後の調整に対する金融政策・プルーデンス政策面での対応に関する中間報告である。バブル崩壊後の調整過程においては、期待成長率の急激な下方修正、企業等におけるバランス・シート調整や銀行の不良債権問題を背景とする金融仲介機能低下等がバブル崩壊のショックを増幅し、調整期間を長期化させた。金融政策について、マーシャルのk、テイラー・ルール、株式イールド・スプレッド、実質短期金利の4つの基準を用いると、緩和方向への転換は総じて速やかであったものの、当初の緩和の大きさは、通常のストック・サイクルに見合ったものであり、後知恵でみれば、バブル崩壊の影響を十分予見したものではなかったとの評価も可能である。もっとも、仮に、より早めにドラスティックな金融緩和が行われたとしても、金融仲介システムの機能低下を勘案すると、抜本的な不良債権問題の処理を行わないまま、金融緩和策だけで対応することには限界があったことは否定し難い。プルーデンス政策面では、システミック・リスクを回避し得た一方、破綻処理法制や包括的なセーフティ・ネット整備の遅れから処理に長い時間を要し、不良債権問題はマクロ経済に対する強い足かせとなった。こうした1990年代の経験を踏まえると、日本銀行がマクロ的ショックの影響とその波及メカニズムについての認識を迅速かつ的確に行い、その調整コストをできる限り小さくしていくことが重要である。また、日本銀行が構造的な問題へ積極的に働きかけ、その政策手段の有効性を高めていく必要性も強調される。
キーワード:金融政策、プルーデンス政策、バブル崩壊、不良債権、クレジット・チャネル、金融破綻処理、構造問題
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