企業会計原則では総額表示の原則を掲げているものの、個別の会計基準では特定の資産と負債を純額で相殺表示することが認められている場合がある。また、企業が特定の資産と負債について法的に相殺する権利を有している場合等においては、相殺表示することが企業の晒されているリスクと将来のキャッシュ・フローをより的確に反映するとの考え方もある。さらに、会計上相殺表示を行うことができれば、企業にとって関心の高い財務比率の向上、とりわけ自己資本比率の向上に関連するため、相殺表示の可否の検討は意義のあることと思われる。本稿ではこのような問題意識から、相殺表示はいかなる場合に認められるべきかを考察した。
相殺表示の要件を考えるにあたり、まず、資産と負債の相殺表示に関する諸外国の会計基準の動向を概観し、次に、そもそも資産と負債を総額で示す意義は何かを貸借対照表の役割に立ち返り検討した。この結果、私案として、広い意味での純額決済がなされる場合には、①当該純額決済の意図、②有効に純額決済できることが相殺表示の要件になるものと考えられた。とくに、後者の内容・程度としては、いつでも純額決済できる必要はないものの倒産法上も有効でなければならず、また、金額の確定できる債務を負っている限り、二当事者の双方債務に限らず三者間以上の関係においても認められるべきものと考えられた。
このような考え方を前提として、具体的に一括清算ネッティング、自己債務の取得、ノンリコース・ローンを対象に相殺表示の可否について検討したが、いずれの場合も相殺表示することが適当と考えられた。
キーワード:相殺表示、オフバランス化、ネッティング、ノンリコース・ローン
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