金融研究 第19巻第1号  (2000年3月発行)

流動性リスクの評価方法について:理論サーベイと実用化へ向けた課題

小田信之、久田祥史、山井康浩

 バリュー・アット・リスク(VaR)によりポートフォリオの市場リスクを計量するうえでは、市場に十分な流動性があり、保有する金融商品が短期間に市場中値で売却可能であることを前提とする場合が多かった。しかしながら、97年10月のアジア危機、98年8月のロシア危機などの経験は、流動性リスクの存在とVaRの限界を改めてクローズ・アップした。
 本稿の目的は、従来のVaRに改良を加え、流動性リスクを考慮した「修正VaR」を算出する理論的枠組みを紹介し、さらにその実用化へ向けた課題を整理することである。具体的には、個々の投資家の取引が価格に与える影響(マーケット・インパクト)を考慮して最適執行戦略を導出し、この最適執行戦略に従って保有ポジションの流動化を完了させるまでの間にどの程度の損失を被る可能性があるかによって修正VaRを算出する。これを実際のポートフォリオのリスク量算定に応用するには、①マーケット・インパクトの定式化、②金融商品間の相関の取扱い、③マーケット・ストレスの取扱い、など解決すべき実務上の問題点が存在する。今後、流動性リスクの評価を実用化させるために、これらの分野での理論・実証両面にわたる研究の発展が期待される。

キーワード:流動性、バリュー・アット・リスク、市場リスク、マーケット・インパクト、最適執行戦略、最適保有期間


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