金融研究 第17巻第5号 (1998年11月発行)

転換社債の市場価格分析とリスク管理

大嶽文伸、小田信之、吉羽要直

 本論文は、株式と債券のハイブリッド商品である転換社債を対象として、プライシング方法に関する解説、市場リスク管理上の留意点の考察、および市場特性の分析を行う。
 転換社債の市場価格を分析する上では、転換オプションの評価が必要不可欠である。本研究では、二項ツリーによるプライシング・モデルを用いて、過去の市場価格情報(個別銘柄毎の時系列データ)を転換オプションのインプライド・ボラティリティ(以下IV)に換算する。このIVデータを利用して、①モンテカルロ・シミュレーションにより転換社債の仮想ポートフォリオの市場リスク額を計測、価格変動の要因分析を行うとともに、②IVデータに対する各種回帰分析により、転換社債市場の特性について実証する。
 この結果、市場リスク管理に関する分析からのインプリケーションとして、IVの変動リスクを認識することの必要性が示された。特に現在のように株価連動度合いの低下した銘柄が多い市場環境では、IVに留意したリスク・マネジメントの重要性が高いことが示唆された。また、市場特性に関する実証からは、①IVと原資産株価の間に有意な逆相関関係があること、②IVは原資産株価のヒストリカル・ボラティリティとの乖離幅を縮小させる方向に変動する傾向を持つこと、③バブル期の転換社債による資金調達は発行体にとって必ずしも有利なファイナンスでなかったこと、が示された。

キーワード:転換社債、インプライド・ボラティリティ、ヒストリカル・ボラティリティ、市場リスク、アービトラージ、発行条件


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