金融研究 第17巻第4号 (1998年10月発行)

第8回国際コンファランス
(キーノート・スピーチ1)
金融政策と情報の質(Monetary Policy and Quality of Information)

アラン・H・メルツァー

 知識集約化は、経済構造の変化や情報技術革新などを通じ、金融政策運営に必要な経済統計の計測を困難にしている。しかし真に重要なのは、経済統計の計測の困難化によって、経済の状況に関する情報の質が悪化するのか、その結果、金融政策発動の機会や政策運営の方法に変化を与えるのか、という問題である。
 この問題への解答ははっきりしないが、過去における経済の大変動は経済統計の質とは関係ない。例えば、1920年代の米国では、GDPデータが存在しない下で、連邦準備制度はカバレッジの低い代替的な経済統計のみによって、大恐慌以外の期間は低インフレと安定成長を維持した。大恐慌も経済統計の不備でなく、政策運営の失敗が原因であるほか、戦後の大インフレにも経済統計の質は関係なく、各中央銀行の政策目標等がその後の展開を左右した。
 他方、米国、日本、ドイツの長期時系列統計によりマネタリーベースと名目GDPの関係を分析すると、大きな政策変更の時期以外は、情報技術革新の進展や経済構造の変化にもかかわらず、両者の関係は安定的である。ここから得られるインプリケーションは、中央銀行は、インフレや名目GDPを中長期的にコントロールする戦略に従うべきであり、一時的、短期的な変動に過剰に対応すべきでないということである。そして、こうした戦略を計画し実行する上では、マネタリーベースと名目GDPとの関係のように中長期的に安定的な関係を利用することが一般的に有効である。


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