金融研究 第16巻第3号 (1997年9月発行)

ウォルシュ・スベンソン型モデルについて
─ インフレーション・ターゲッティングの解釈を巡って ─

白塚重典、藤木裕

 本稿では、ウォルシュ、スベンソン等によって展開されている中央銀行の最適契約に関する議論を紹介する。このウォルシュ・スベンソン型の最適契約モデルは、中央銀行の独立性とアカウンタビリティ、新しい金融政策運営の枠組みであるインフレーション・ターゲッティング等の理論的背景となっている。これは、中央銀行によって社会にとって最適な金融政策の運営が行われる制度的枠組みとして、インフレ率に関する出来高契約、およびこれを現実に運営可能とするための枠組みとしてインフレーション・ターゲッティングの有効性を主張するものと理解することができる。
 最適契約モデルでは、中央銀行総裁と政府が実現インフレ率に比例する出来高契約(performance contract)を結ぶことを提案している。この契約により、中央銀行が他人の知り得ない情報に対して柔軟に対処することを通して経済安定化の任務を果たしつつ、インフレ率を過剰に引き上げないように動機付けられる結果、社会にとって最適な均衡が達成できることが示される。
 実際に出来高契約を導入している中央銀行は存在しないが、出来高契約と同等の結果が中央銀行に社会一般より低いインフレ目標値を採用させることで達成可能である。また、インフレ目標値の達成に失敗した中央銀行総裁を罷免することをも展望したニュージーランドの中央銀行制度についても、出来高契約の枠組みの中で理解し得る。

キーワード:中央銀行、金融政策、動学的不整合性、インフレ・バイアス、最適契約、インフレーション・ターゲッティング


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