金融研究 第16巻第1号 (1997年3月発行)

資本市場の不完全性と金融政策の波及経路
─ 最近の研究成果の展望 ─

星岳雄

 完全な資本市場では、モディリアーニ・ミラーの命題が成立し、企業の資金調達手段はその投資行動に影響を与えない。しかし、非対称情報などの不完全性が市場に存在すれば、各資金調達手段はもはや完全代替的ではなくなる。このとき、企業の投資は、比較的情報コストの低い資金源(たとえば内部資金や銀行借り入れなど)の利用可能性に制約されることになる。最近の実証研究は、概ね、この結論を支持しており、情報の問題の重要性を示唆している。このように資本市場が不完全な場合、金融政策は、教科書的な「預金のチャンネル」だけではなしに、「貸出のチャンネル」をも通じて、実質経済に影響を与える。最近の実証研究は、貸出のチャンネルの存在を支持しているが、それが預金のチャンネルよりも重要なものかについては意見が分かれるところである。最後に、最近のデリバティブの普及は、このような金融政策の波及経路に大きな影響を与えると思われるが、実証研究の不足から、その影響の方向についてはまだ断定できない。

キーワード:情報の非対称性、資金源の非代替性、投資の内部資金制約、金融政策の波及経路、貸出のチャンネル、預金のチャンネル、デリバティブ


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