金融研究 第15巻第3号 (1996年8月発行)

ワークショップ「わが国幣制の変遷と対外関係
─ 前近代を中心として」の模様 ─

 本論文は、1996年3月27日に開催された標記ワークショップでの討議の模様を取りまとめたものである。
 ワークショップでは、斯波義信・国際基督教大教授による宋・元・明代中国の幣制についての特別報告の後、金融研究所の日本の幣制と対外関係に関する報告を基礎に活発な議論が展開された。斯波教授の報告においては、中国の幣制は北宋期が銅銭全盛期、南宋・元・明代が銅銭の枯渇・流出と紙幣導入の時期と分類されるように、その時々に利用可能であった貨幣資源や技術条件を与件として実施された政府政策と、それに対する民間経済部門の対応のなかで発展してきたことが強調された。
 次に金融研究所の報告では、わが国幣制は中国に対する反発・受容・独立というかたちで発展してきたが、近世においては、(1)金銀銅すべてを基本通貨とする三貨制が採用された、(2)大量に産出した銀のほとんどが海外に流出したため、江戸時代の幣制は貨幣素材不足への対応のなかで生成・発展してきた、(3)徳川幕府は、鎖国や金銀の一般売買禁止などにより貨幣素材の確保に努めたが、増大する貨幣需要を満たすことができなかった、(4)このため、貨幣の円滑な供給を目的として金・銀貨の改鋳や藩札の発行容認に踏み切らざるをえなかった、と主張された。
 その後の討議においては、国際的な視野から日本の幣制の変遷を考えていくことの重要性が基本的に確認されたうえで、(1)中世から近世への移行に伴う基軸通貨の変遷過程についての詳細な考察、(2)藩札の機能や性格についてのより綿密な検討などが、今後取り組むべき課題として指摘された。


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