金融研究 第1巻第1号 (1982年10月発行)

内外金利体系の相互関連

深尾光洋、大久保隆

 従来、為替相場制度の評価に関連して、「固定相場制下においては、直先スプレッドが上下介入点の外には拡大できないために、内外金利差は独立でなかったが、変動相場制下では、直先スプレッドが自由に拡大できるので、内外金利体系は独立になる」との見方が、かなり広く流布されてきた。しかし、米国金利の上昇局面ではわが国の機関投資家等による外債投資増が、また米国金利の低下局面では外国からの対日債券投資増が、それぞれ顕著になるという事実を踏まえて、内外金利体系は変動相場制下でも独立ではなく、最近の米国の高金利とその乱高下はわが国の長期債利回りに大きな影響を与えているとの見方が一般化しつつある。
 そこで、本稿では、内外の金利水準およびその期間構造(以下両者を合わせて金利体系と呼ぶ)が、変動相場制下において本当に独立でありうるかについて再検討する。まず第2章において、内外金利差が発生するメカニズムを、単純化された状況設定に基づく思考実験によって解明する。これにより、変動相場制下で内外金利差が為替管理なしで維持されるのは、通説のように直先スプレッドの発生によるのではなくて、金利差を打ち消すような為替レートの先行き変動への期待と為替変動リスクからくるリスク・プレミアムの2つの要因によることがわかる。また同時に、短期金利はこうした要因によりかなりの程度海外金利からの独立性を保つものの、長期金利については、海外長期金利の影響を十分遮断できないことが示される。
 次に第3章では、国内金利体系の決定における海外要因の役割を、理論モデルを使って分析する。これにより、国内長期資産利回りは、従来考えられていた国内短期金利、長期債発行残高等の国内要因に加え、海外の長期金利、内外のインフレ格差、わが国の累積経常収支等の海外要因にも依存することが示される。
 第4章では、前章で理論的に導かれた国内長期資産利回りの決定式を、わが国長期国債利回りに適用し実証分析を行う。その結果をみると、わが国の長期国債利回り決定式において、米国長期金利、為替レート期待変化率等の海外要因が無視できない影響力をもっていると言える。


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