本稿は、1970年代の世界的なインフレーションをめぐって各国政府・中央銀行が国際的なフォーラムで形成した「国際的文脈」をあきらかにする。本稿では経済協力開発機構(OECD)に焦点をあて、インフレの時代の幕開けと終焉がどのように認識されたかをOECDの部会等の場における言説・学説の展開のなかから歴史的に追跡する。具体的には、(1)米国に発する「国際流動性」と各国におけるインフレの関係、(2)変動相場制とインフレの関連、(3)オイル・ショックをインフレ要因とみる見方と景気後退要因とみる見方の相克、(4)賃金をふくめた「コスト・プッシュ」要因をめぐる論争、(5)インフレやスタグフレーションへの対策に係る「ポリシー・ミックス」と「機関車論」、等の論点を取り上げる。インフレーションとスタグフレーションという歴史的経験を経るなかでOECDにおける「国際的文脈」はさまざまに揺れ動いていったが、こうした「国際的文脈」の形成に際しては日本政府・日本銀行の代表は重要な役割を果たした。とりわけインフレの時代の終幕に近づいた1970年代後半には「機関車論」の盛衰を経て、日本の賃金の伸縮性が国際的な関心を集めることとなった。
キーワード:OECD、WP3、インフレーション、スタグフレーション、ポリシー・ミックス、機関車論、国際的文脈
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