本論文は、消費者の決済手段選択に関する既存の実証研究を整理した上で、消費者と商店の両サイドのパネルデータを構築し、そのデータから得られた主要な観測的事実を提示することを目的とする。近年、日本でもキャッシュレス決済手段が浸透しつつあるものの、その普及速度は他国と比べて著しく遅い。本研究はこの遅れの要因を解明することを目的とし、決済手段が消費者と商店という二つの異なる経済主体を媒介するプラットフォームであり、典型的な両面市場(two-sided market)である点に着目する。本研究では、約20,000人の消費者を約2年間にわたり追跡し、日々どのような場面でどのような決済手段を使用したかを記録したデータに加え、キャッシュレス・ポイント還元事業を通じて収集された各市区町村における10日ごとのキャッシュレス決済手段導入店舗数のデータを統合し、新たなパネルデータを構築した。そして、統合されたデータを用いて、消費者のキャッシュレス決済手段の導入・利用に対して、商店側のキャッシュレス決済手段の導入状況が与えた影響について、記述的に分析を行った。
キーワード:決済手段、両面市場、間接ネットワーク効果
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。