金融分野では、量子コンピュータ開発の今後の進展を展望し、量子コンピュータによる暗号へのリスクにどのように対処していくかに関心が集まっている。大規模かつ実用的な量子コンピュータが実現すると、現在普及している公開鍵暗号のセキュリティが低下し、それによって保護されている情報が解読される可能性がある。こうしたリスクへの対応として、量子耐性を有する暗号(耐量子計算機暗号)への移行などに関する調査報告や提言が金融関連の団体や当局から最近相次いで発表されており、いずれも、リスク低減に向けた検討の早期着手が望ましいとの見方を示している。そのうえで、各金融機関のシステムにおける暗号の使用状況の調査・管理、長期間保護が必要な情報の特定とリスクの評価、量子耐性を有する暗号へ効率的に移行する仕組みの実装、金融業界としてのリスク低減計画の策定などが推奨されている。各金融機関においては、こうした推奨事項を踏まえつつ、量子耐性を有するシステムの実現に向けて適切に対応する必要がある。
キーワード:暗号アジリティ、暗号アルゴリズム移行、暗号インベントリ、公開鍵暗号、耐量子計算機暗号、量子コンピュータ
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