ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2024-J-21

イノベーションの選択と製品サイクルが最適トレンドインフレ率に与える含意

猪熊宏士、片桐満、須藤直

最適トレンドインフレ率は、マクロ経済学の分野では長らく議論されてきたテーマである。本研究では、新製品のイノベーションと製品のライフサイクルの相互作用に焦点を当てたモデルを新たに構築し、そのもとで、最適トレンドインフレ率への含意を理論的に考察している。モデルの枠組みは、価格の硬直性がある内生的な成長理論のモデルである。モデルの経済では、企業は製品開発を経て経済に参入するが、その際、 1. 新製品についてイノベーションを行い先駆者となるか、2. 追随者となるかを選択する。先駆者は全く新しい製品を開発し、創造的破壊を引き起こすことを通じて、既存セクター内の企業の退出を促す。追随者は、既存製品と類似はするものの同一ではない製品を開発し、既に先駆者が存在する既存セクターに参入する。トレンドインフレ率は、企業が先駆者であるか追随者であるかによって、その収益に異なる影響を及ぼし、企業はこの影響を事前に考慮にいれたうえで先駆者になるか追随者になるかの意思決定を行う。理論分析からは、最適なトレンドインフレ率はゼロを超え得るとの含意が得られる。これは、当モデルでは、正のトレンドインフレ率が、追随者が既存セクターに参入する際に生じる、当該セクターに存在する先駆者の利益の減少を抑制する効果を持ち、その結果、先駆者数の増加を促進することを通じて、新製品の開発の増加、ひいては経済成長を促進することによる。

キーワード:粘着価格、最適インフレ率、製品ライフサイクル、イノベーション、生産性向上、マークアップ


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