本研究の目的は、時価会計の導入というイベントが、評価差額の資本への影響を懸念する事業法人にとって、その影響を緩和するために政策保有株式の縮減を進めさせるだけのインパクトをもつか否か(リアル・エフェクトがあるか否か)について明らかにすることである。日本では、時価会計が導入された時期と、非効率な持ち合い解消論が優勢となった時期が重なっているため、時価会計の導入前後で政策保有株式の縮減の程度に差異があるか否かを確認するだけでは、時価会計の導入に政策保有株式の縮減効果があるかどうかはわからない。本研究では、企業がもつ時価会計の導入に対する抵抗感の差異に着目し、その差異を、米国会計基準に準拠して連結財務諸表を作成する日本企業が選択する時価会計(SFAS第115号)の導入時期によって把握する点に特徴がある。時価会計の導入に対する抵抗感の強い企業とそれが弱い企業の政策保有株式の保有量トレンドを比較した分析の結果は、時価会計の導入というイベントが、評価差額の資本への影響を懸念する事業法人の多くにとって、その影響を緩和するために政策保有株式の縮減を進めさせるだけの直接効果をもつとはいえないことを示唆するものであった。
キーワード:政策保有株式、時価会計、リアル・エフェクト
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