ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2024-J-18

意思決定有用性に係る質的特性の分析:
変容する「信頼性」

澤井康毅

本稿は、投資家の意思決定に有用な情報を提供するために会計基準が備えているべき「質的特性」を題材として、かつて基本的特性とされていた「信頼性」が、FASBとIASBによる共同プロジェクトを経て、「表現の忠実性」に置き換えられた理由を分析している。「信頼性」とその要素であった「表現の忠実性」および「検証可能性」が、基準開発上どのように解釈・運用されていたかを確かめた結果、「信頼性」がもともと「表現の忠実性」を意味していたとする基準設定主体の説明は誤りといえなかった。しかし、忠実な表現の対象は、2000年以降、企業の財政状態へとシフトし、あわせて、「表現の忠実性」と結びつけられた公正価値評価の拡大により、「表現の忠実性」と「検証可能性」の両立が困難になっていく様子が観察された。「信頼性」を「表現の忠実性」に置き換え、「検証可能性」を補強的な特性とした背景には、「信頼性」を構成する質的特性間の矛盾を避け、現行基準をよりよく説明する意図があったと考えられる。

キーワード:意思決定有用性、概念フレームワーク、質的特性、信頼性、表現の忠実性、検証可能性、公正価値


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