本論文では、急速に研究が進展する気候ファイナンスの文献について、「価格発見およびリスク移転機能」、「主体間の資金仲介機能」、「異時点間の資源配分機能」という、金融市場の3つの基本的機能を切り口にサーベイした。第一の切り口からは、気候関連リスクは徐々に資産価格に織り込まれているものの、引き続きミスプライシングが残存している可能性が指摘されている。また、気候関連リスクのヘッジに関する研究が進展を見せている。第二の切り口に関して、サステナブル投資の急速な規模拡大に合わせる形で、こうした投資行動が資産価格に与える影響を実証した結果の蓄積が進んでいる。一方、サステナブル投資が、より実効性を高めていき、低炭素社会への移行をさらに後押ししていくためには、発行体企業に対するインセンティブや、データ整備などの、さまざまな課題が存在することも明らかになってきている。最後に、第三の切り口に関連して、社会的割引率に関する主要なアプローチである、規範的アプローチ・実証的アプローチ・持続可能性アプローチをサーベイし、社会的割引率を取り巻く議論のポイントを整理した。近年の気候ファイナンス研究は、市場参加者に対するサーベイの多くにおける指摘と共通する形で、気候変動リスクの資産価格への織り込みが十分ではないことや、ESG投資家層の拡大やデータ面での整備が今後の課題であることを示唆している。引き続き、金融実務の発展とファイナンス研究の知見の蓄積の両者が相俟って、気候変動対応において金融市場が重要な役割を果たしていくことが望まれる。
キーワード:気候変動、気候ファイナンス、物理的リスク、移行リスク、サステナブル投資、資産価格評価、社会的割引率
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