デジタルマネーの普及が進むなか、その不正取得の可能性も増している。仮に、デジタルマネー発行事業者(以下、「発行者」という。)が不正者による払戻しに応じ、当該払戻しが有効であると認められると、真の権利者がそれに対応するデジタルマネーを失う、すなわち損失を負担する結果となる。反対に、払戻しが無効であると認められると、発行者が損失を負担する結果となる。本稿は、こうした利用者と発行者の間における、デジタルマネーの不正取得に起因する損失分担にかかる規律およびそのあり方の分析を目的としたものである。
すでに、預金については、不正払戻し等に関する事例や議論の集積があり、無権限取引に起因した利用者と銀行間の損失分担は、民法478条および預金者保護法によって規律されることが明らかとなっている。本稿では、これらを手掛かりに、デジタルマネーと預金との異同を明らかにしつつ、デジタルマネーの不正取得等に起因する損失分担に適用される規律とその帰結を明らかにする。その結果、預金とデジタルマネーとでは適用される規律に違いがあること、加えて、不正取得されたデジタルマネーについても、その利用態様によって、適用される規律が異なることが明らかとなる。以上を踏まえ、今後のわが国における制度のあり方を探るために、欧米における制度を紹介し、若干の分析を行う。
キーワード:デジタルマネー、預金、不正取得、なりすまし、民法478条、表見法理、預金者保護法
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。