マクロ経済学において、金融政策と財政政策は、双方とも、総需要を喚起する重要なマクロ政策手段として位置づけられており、その波及経路や効果は相互に依存すると考えられている。具体的には、金融政策における金利操作は、総需要が異時点間で代替する誘因の大きさを変えることで、財政乗数を変化させ得るほか、利払い費の変動を通じて、政府債務の推移などにも影響を与える可能性がある。逆に、財政政策やその結果としての政府債務の大小も、一般的な経済・社会構造と同様に、家計や企業の意思決定に影響を及ぼすことで、金融政策の波及経路や効果に作用し得る。加えて、基礎的財政収支の動学が、金融政策の政策目標である物価決定において重要な影響を及ぼすとする学説も存在する。両政策の相互依存についての学術的な関心は、グローバル金融危機と感染症拡大という二つの大きな危機や感染症拡大期以後のインフレ高進を背景に、総需要喚起政策のあり方が改めて広く議論されたことなどを契機として一段と高まっている。本稿では、主として「テイラー・ルールと財政乗数」、「金利と政府債務」、「物価水準の財政理論」の三つの観点から、金融政策と財政政策の相互作用について、最近のマクロ経済学の潮流を整理する。
キーワード:テイラー・ルール、財政乗数、金利と政府債務、物価水準の財政理論
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