本稿では、2022年「資金決済に関する法律」の改正により創設された電子決済手段(いわゆるステーブルコイン)の法形式と移転について検討する。電子決済手段は、実際には、資金移動業者を発行者とするP2P(Peer-to-Peer)型の1 号電子決済手段、または信託銀行・信託会社を発行者とするP2P型もしくは非P2P型の3号電子決済手段として利用される可能性が高い。これらの電子決済手段が、決済手段として十全に機能するには、その移転が法的に確実・安全かつ簡易迅速になされるべきことから、要求払預金を決済手段とする振込等につき判例・有力説の採用する、いわゆる消滅・発生構成を適用することの妥当性を検討する。当該構成では、資金移動の指図の効力がその原因となる法律関係の影響を受けない点は妥当であるが、意思表示に瑕疵のある指図や無権限者による指図に基づく資金移動が有効とされる理由は明らかでない。P2P型の電子決済手段について、決済システムにおける指図行為自体の無因性・抽象性・文言性の範囲が検討される必要があり、類似点を有する支払委託有価証券に関する議論を参考に、消滅・発生構成の射程を限定することが考えられる。電子決済手段は、発行者を中心とした利害関係者によりコントロールされる可能性があり、将来的には、支配(コントロール)概念を中核とする権利の発生・移転・消滅・善意取得・抗弁の制限等に係る民事法上の規律を、立法により整備することが期待される。
キーワード:電子決済手段、預金、資金移動業、電子マネー、ステーブルコイン、暗号資産、有価証券
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