ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2024-J-7

法人税法における貸倒引当金の性質に関する考察

小森将之

本稿の主題は、法人税法における貸倒引当金の制度創設から現行制度に至るまでの変遷を整理・検討することで、貸倒引当金の法的性質を考察することである。貸倒引当金は、法人税法における「別段の定め」の1つであるが、貸倒引当金の変遷を紐解くと、通説がいう、公正処理基準を前提としつつも、画一的処理の必要性等から、公正処理基準を部分的に修正することを内容とする別段の定めであるかは、必ずしも判然としない。検討の結果、貸倒引当金は、その制度創設以降、一貫して、法人の内部留保充実という目的から設けられた別段の定め、すなわち、租税特別措置に該当するものと考えられる。貸倒引当金の利益留保性は、制度創設から現行制度に至るまで、法定繰入率の引下げや貸倒実績率への一本化、適用法人の限定化等を通じて概ね一貫して縮減されている。こうした縮減は、いわゆる評価性引当金への接近を企図したものではなく、課税ベースの拡大を企図したものと考えられる。この結果、現行制度において貸倒引当金は、中小法人の保護および金融システムの安定化を企図した政策税制に変容したと整理できる。

キーワード:貸倒引当金、租税特別措置、政策税制、別段の定め、金融システムの安定化


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2024 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム