ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2023-J-15

米国における現金給付策と所得階層別にみた限界消費性向

小林悟

新型コロナウイルス感染症は経済活動に未曾有の危機をもたらし、多くの国では家計向けに現金を給付するなど、景気の下支えを行った。こうした危機対応としての現金給付策は、家計が事前に予測不可能だった変動所得としてみなせるため、限界消費性向の計測に利用することができる。本稿では、米国の現金給付策に着目し、感染症拡大時に特徴的な消費に関する要因をコントロールした上で、所得階層別の限界消費性向を計測した。推計によると、第1に、所得階層ごとに限界消費性向が異なるという先行研究と同様の結果を得たが、その値は0~0.3程度と既存研究対比で低めに推計された。第2に、感染症の実態が判明するにつれて、公衆衛生上の措置の対象地域が絞られる等、運用がシフトしていった結果、公衆衛生上の措置が消費を下押しする度合いも変化した。第3に、感染症拡大による消費下押し効果は、治療法の確立や感染抑制策の奏功等を映じた恐怖感の剥落もあって、時間的に変化した。最後に、現金給付策等は、所得階層別にみた限界消費性向の違いを通じて、家計貯蓄額の格差に変化をもたらした可能性がある。また、限界消費性向が低い所得階層にも現金が支給された結果、全体の財政乗数が低下した側面も窺われる。

キーワード:限界消費性向、現金給付策、公衆衛生上の措置、新型コロナウイルス感染症、COVID-19、高頻度データ、家計の異質性


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2023 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム