ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2023-J-3

日本におけるIFRSの任意適用の意義

鶯地隆継

日本が2009年にIFRSの適用を開始してから10年以上が経過し、日本におけるIFRS適用企業の時価総額はJPX日経インデックス400対象企業の時価総額の過半を占めるに至っている。日本では、IFRSを強制適用するのではなく、企業が日本基準とIFRSとを完全に自由に選択できる任意適用というユニークな対応が採られているが、こうした対応の持つ意義は必ずしも明らかではない。本稿では、IFRSの策定目的や国際的展開の経過を概括し、現在の適用状況を整理した上で、先行研究から得られる知見をもとに、日本におけるIFRSの任意適用の意義を探った。その結果、(i)IFRSの強制適用は140を超える法域に拡がっているものの、ローカルな会計基準と衝突する基準は削除されるケースがあるなど強制適用の程度にはばらつきがあること、(ii)経済的帰結に関する実証的分析からは、任意適用に比べて強制適用の優位性を示唆する海外の研究がある反面、日本では価値関連性の向上など任意適用を肯定的に捉える研究もみられること、(iii)制度選択に関する理論的分析からは、国際的な会計基準の収斂を進展させる過程では、収斂先の多様性を許容することが有効であることを確認した。そうしたもとで、企業がグローバルな経営環境に適合するためにIFRSを自由に選択できる点や、比較衡量できる複数の基準が併存することによって、IFRSを中心軸とする会計基準の発展に寄与し得る点を任意適用の意義として肯定的に評価した。

キーワード:IFRS、会計基準、任意適用、制度選択、コンバージェンス、ダブルスタンダード


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