ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2022-J-10

限界家賃指数の推計:消費者物価指数の改善に向けて

吉田二郎

本研究では、日本の消費者物価指数の主要項目である家賃指数が、現状では著しく平滑化されかつ上昇率を過小評価していることを示す。まず現行の家賃指数に対する限界家賃指数の優位性を論じた後、東京都市圏、大阪都市圏、名古屋都市圏の住宅賃貸標本を用いて限界家賃指数を推計し現行の消費者物価指数との差を示す。指数構築に際して、賃貸物件と住宅ストックの属性分布の差異を傾向スコア・マッチングにより軽減したうえでヘドニック家賃関数を推計することで、標本特性を一定に保ち経年減価を排除した家賃指数を構築する。分析の結果、賃貸募集されている物件と住宅ストック全体とでは特性が大きく異なること、消費者物価の家賃指数とは異なり限界家賃指数には国民総生産と相関した上昇率変動が見られること、限界家賃は都市圏によらず平均的に上昇し一年あたり約1.3%ずつ消費者物価の家賃指数と乖離していること、乖離の主要要因は年率約1%の経年減価であること、民営家賃と持家帰属家賃がほぼ同様に変動すること、が明らかになった。この結果は金融政策、経済統計の実質値の推計、年金受給者の厚生、将来の社会保障費の見積もりなど広範に含意をもつ。

キーワード:インフレーション、消費者物価、不動産、家賃、傾向スコア・マッチング、ヘドニック、経年減価


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