ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2022-J-9

耐タンパー性に基づくデジタル通貨ウォレットの研究動向―匿名性と透明性の両立に向けて―

大塚玲

近年、デジタル通貨に関する研究開発が活発化している。デジタル通貨には、マネーロンダリング及びテロ資金供与への対応として、秘匿されたデータを開示できる性質が求められることから、匿名での取引を可能とする性質(匿名性)をもたせたうえで、必要に応じて取引の内容を開示できる性質(透明性)を確保できることが望ましい。研究コミュニティでは、1980年代から匿名性と透明性を両立するトークン型デジタル通貨が研究されてきており、ブロックチェーンを基盤とするデジタル通貨への応用も研究され始めている。しかし、アンチマネーロンダリング等の社会的要求を満たす透明性の技術特性は明らかでなく、暗号技術だけで社会的要求に応える匿名性と透明性の両立は難しい。そこで、本稿では、透明性を柔軟に実現できる可能性のある理論基盤として、最近提案された実行証跡付セキュアプロセッサ(Attested Execution Secure Processor, Pass, Shi and Tramer, 2017)に基づく方式の実現可能性を考察する。近年のスマートフォンに搭載された耐タンパー技術は、この理論が求める理想的なプラットフォームの要件をほぼ満たしており、匿名性と透明性を両立可能であると考えられる。

キーワード:暗号資産、証跡実行セキュアプロセッサ、耐タンパー技術、デジタル通貨ウォレット、透明性、匿名性


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