ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2021-J-9

CSRに関する研究のサーベイ:CSR基準の統一化・開示の義務化の観点から

大島祐也、中久木雅之

本稿では、CSR基準の統一化、開示の義務化を問題意識として、自発的なCSR活動やCSR開示に関する研究およびCSR開示の義務化などの研究についてサーベイを行った。本稿における主な発見事項と含意は、次の通りである。1)様々な要因が自発的なCSR開示に関する意思決定に影響を与えるため、開示義務がない場合には、必ずしもすべての企業が投資家やステークホルダー全般にとって重要なCSR開示を行わない可能性があること、2)CSR開示は投資家に有用な情報を提供するとともに、情報の有用性は制度的要因等にも影響を受けると考えられること、3)CSR開示の義務化が企業の実体的なCSR活動を促進し企業の収益性が低下したとする研究が存在しており、(i)CSR活動の活発化を目的とする政策としてCSR開示を義務付ける方法は意味がある点、(ii)CSR開示を義務付けることにより収益性にマイナスの影響を与える可能性がある点が示唆されること、4)IFRSの強制適用に関する研究結果からは、強制や遵守の枠組みを併せて検討することが重要であるほか、すでに何らかの基準を能動的に適用し開示を行っている企業は質の高い開示を続ける一方で開示が強制された企業の開示の質は高くない可能性があること、5)第三者による保証には信頼性の向上が期待できる中で、企業の自発性だけに任せては、必ずしも必要な企業のすべてが保証を受けない可能性があること。

キーワード:ESG、CSR、基準の統一化、開示の義務化


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