ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2021-J-6

1960年代末における国際収支に対する認識と金融政策:金融政策の転換前後における日本銀行の視点を中心に

神尾英克、森田泰子

1960年代後半、わが国の貿易収支は、景気の好転時に悪化するという従来のパターンから脱却した。1969年9月の金融引締めは、国際収支改善を目的とした従前の引締めと異なり、国際収支の黒字が続くなかで決定された。先行研究においては、この引締めが国際収支の黒字を一層拡大し、ニクソン・ショックをもたらした旨の評価がある。国際収支動向の基本的変化や為替レート変更の必要性に関する政策当局の認識の遅れが指摘されているのである。本稿では、上記金融引締め前後における日本銀行の視点を中心にして、同時代の資料に基づき、日本銀行が国際収支の動向や「黒字国」としての政策課題をどのように認識していったかを検証する。1969年半ば、わが国は「史上初めて黒字国としての諸問題に当面」しつつあった。この時期、外貨準備の増加抑制政策が始まっていたが、海外からは、黒字定着を前提に、より積極的な輸入制限撤廃や資本輸出自由化を求められた。国内では、これが黒字国としての責任の追求と認識された。日本銀行は、こうした責任を意識しつつ、金融引締めを行なった。その後、日本銀行の宇佐美総裁は、国際通貨基金総会後の記者会見で、黒字下の引締めに対する国際的理解は得られているが自由化促進によって黒字国の責任を果たすべきとの認識を示した。このように、当時、わが国に対する黒字国責任論の核心は、「制限的体制からの脱却」、とりわけ輸入自由化と資本輸出自由化だった。その意味では、この時点での政策対応に関する日本銀行の認識は、国際的にみて必ずしも遅れていなかった。

キーワード:国際収支、金融政策、黒字国の責任


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