ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2020-J-14

市場におけるルールと私的組織:市場ガバナンスに関する試論

飯田高

本稿は、市場を取り巻く諸ルールと「グループ」――ここでは主観的または間主観的に認知された社会的カテゴリーを指す――の間の動的な関係を描写する大まかな見取り図を示すことを目的としている。市場のルールを「取引秩序のルール」と「市場制御のルール」に大別したうえで、それらのルールが実効化される際にどのような主体が関与するかについて論じる。ルールの種類によって実効化の難易度が異なる点を指摘するとともに、ルール実効化に関与する主体のうち、特に私的組織の果たす役割について考察している。
次いで、より具体的な事例(中世・近世日本の信用経済、暗号資産、プラットフォーム)に関する検討を行い、それを踏まえて「物を通じたガバナンス」と「人を通じたガバナンス」という2つの側面を抽出している。前者に関しては「取引の対象である財やサービスの境界や移転の条件がどの程度明確になっているか」、後者に関しては「市場においてどのくらいグループ化が進行しているか」がガバナンスの成否を左右する要素である。さらに、権利の特定性とグループ化の程度の観点から市場を分類し、ここでの分類が法政策に対していかなる含意をもつかについても略述している。
ここで一貫して注目しているのは、市場の基盤が国家機関以外の力によって形作られ実効化されていく過程である。その過程の中でグループが演じる役割は無視しえない。市場とグループは対置して論じられやすいが、実際の市場はグループと不可分の関係にある。

キーワード:ルール、ガバナンス、取引秩序、市場制御、権利、私的組織、グループ


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