ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2020-J-12

ESG投資と機関投資家の受託者責任の関係についての一考察:英国における取締役の義務の捉え方を足掛かりとして

小薗めぐみ

近時、ESG投資(投資先選定プロセスに財務諸表・決算情報などの財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への取組みといった非財務情報も考慮する投資手法をいう。)が世界的に注目を集める中、ESG投資を推進することが、機関投資家の受託者責任に抵触しないかが問題となっている。すなわち、機関投資家は、自らの資産を自らの判断で運用する個人投資家と異なり、受益者から資産運用を受託し、受託者として資産を運用する責任を法律上負っている。機関投資家は、こうした受託者責任のもとで、一般的に、経済的リターンの最大化を図るべきと考えられてきたため、経済的リターンだけでなく、ESG要素を考慮して投資を行うことは、機関投資家の受託者責任に反するのではないかという点が法的に問題になりうる。
この点に関し、特に議論が活発に行われている米国と英国とでは、その動向に注目すべき相違がみられる。本稿では、米国と英国におけるESG投資と機関投資家の受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)の関係にかかる議論の動向を整理するとともに、両者に相違がみられる背景を探る足掛かりとして、英国における取締役の義務の内容を検討する。そのうえで、わが国において今後、ESG投資と機関投資家の受託者責任の関係について議論するうえで、どのような観点が有益となるのか、英国を参考に示唆を得る。

キーワード:ESG投資、受託者責任、フィデューシャリー・デューティー、機関投資家、エリサ法、2006年会社法、啓蒙的株主価値


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