ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2020-J-10

わが国における企業会計の資本の行方−IFRSとの関係から−

秋葉賢一、羽根佳祐

本稿では、わが国における企業会計の資本について、会計上の論点と会社法上の論点とを、それぞれ検討し、今後の制度的な対応における見通しをよくすることを主眼としている。まず、わが国の国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards: IFRS)任意適用企業の修正を参考に、今後、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取組みを行う場合を想定して、資本に関する会計上の論点を考察した。次に、連結財務諸表に加えて個別財務諸表においてもIFRSの任意適用を図る場合を想定して、資本に関する会社法上の論点を検討したところ、IFRSに基づいて個別計算書類を作成しても、分配可能額や課税所得、金融規制への影響などそれぞれの利害調整の目的に沿って別途、会計情報の調整が必要であるものの、また、事務的な会社法の改正は必要になりうるものの、解釈で対応可能なものを含め、根本的な問題は見当たらなかった。さらに、今後、日本基準を国際的に整合性のあるものとする場合、「日本基準では株主資本ではないがIFRSでは資本であるもの」(例えば、新株予約権や永久劣後債)については、利益計算では資本とするが、純資産の表示では株主資本以外の項目とする改正が、法令の改正を必要とするものの、会社法のこれまでの考え方(基本財務諸表で示される株主資本の各項目の意義や、株式の払込金額を資本金・資本準備金とし新株予約権の払込金額を新株予約権とする結びつきを指す)をあまり変えず制約が少ないと考えられた。また、「日本基準では純資産であるがIFRSでは負債であるもの」(例えば、取得請求権付株式)についても、間接控除し負債に振り替える方法などは、法令の改正が必要となるが、これまでの考え方をあまり変えるものではないと考えられた。

キーワード:株主資本、純資産、国際財務報告基準(IFRS)、計算書類、新株予約権


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