ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2018-J-10

ノイズ情報モデルとインフレ動学

奥田達志

本稿は、人々が経済状態についてノイズを含む不完全な情報しか保有していないと想定して分析を行う「ノイズ情報(noisy information)モデル」に焦点を当て、インフレ動学に関する研究を展望したものである。ノイズ情報モデルを用いたインフレ動学に関する研究は、1970年代のフェルプス=ルーカス・モデルを起源とし、その後いったん表舞台から姿を消したものの、2000年代に再生を果たし、近年においても発展を続けている。2000年代以降の研究では、実際に観察されるインフレ動学の高い慣性に、情報の不完全性がどのように作用しているのかを明らかにするという目標のもと、フェルプス=ルーカス・モデルをより洗練されたモデルへ拡張する取り組みが行われてきた。本稿では、2000年代以降に、ノイズ情報モデルの分野において、フェルプス=ルーカス・モデルがどのように拡張されたのか、またそうした拡張によって導入されたメカニズムがなぜ、現実のインフレ動学を上手く説明することに役立つのかを解説する。そのうえで、中央銀行の政策運営へ新たな知見を与えるノイズ情報モデルを用いて金融政策やコミュニケーションの効果を分析した近年の研究についても、一部を紹介する。

キーワード:ノイズ情報モデル、インフレーション、高次信念、金融政策


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