ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2017-J-10

アメリカ連邦法における銀行財産の不正使用の罪について

樋口亮介

本稿は、アメリカの財産犯、特に横領罪の理解を確認した上で、連邦法上の銀行財産の不正使用の罪を紹介するものである。
連邦法上の銀行財産の不正使用の罪は、信認義務を負う主体が、その地位を利用して、銀行に帰属する財産について、銀行を加害又は欺罔する意図で、不正使用することを処罰することを基本とする。ただし、信認義務を負わない銀行の関係者の窃盗も処罰することが可能な点で、やや理解しにくい規定になっている。
銀行を加害する意図は、銀行に損失を与えることが自然の成り行きであると認識している場合に認められる。巡回区によっては無謀な無思慮で足りるとも解されている。銀行を欺罔する意図については、加害意図と同一に解する巡回区と、信認関係の違背によって欺罔意図を肯定する巡回区に分かれている。後者の実益は、損失は与えないものの、利益相反の禁止などの銀行財産を一般的に保護するルールに違背した場合にも欺罔意図が認められる点にある。
不正使用罪の実行行為である不正使用の意義は、判例上、明確な定義が与えられておらず、不明確になっている。実際に処罰されている事例の多くは、銀行財産の使用によって銀行に損失を与えるとともに、何らかの隠蔽工作が行われており、こういった場合には処罰価値が明らかといえる。しかし、著しいリスクをはらんだ貸付けなどについては、処罰の可否が明らかでないのが実状と思われる。

キーワード:連邦刑法、銀行財産の不正使用罪、銀行財産の保護、横領罪、背任罪、比較法


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