ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2012-J-12

わが国企業の低収益性等の制度的背景について

木下信行

 わが国企業は、収益性が低いうえに近年は多額の内部資金を抱える等、際立った特性を示している。本稿は、この現象に対する法制度の影響について、今後の研究の足がかりを提供する。
 本稿では、会社法、倒産法、金融商品取引法等、企業の財務に関わる法制度全般を視野に入れ、「本に書かれた法律」と「現実に用いられている法制度」双方を検討した。具体的には、わが国とアメリカ及びドイツの法制度の差異を洗い出したうえで、経営者等の当事者が、経済合理性に沿ったインセンティブ構造のもとで、法制度を道具等として用いるという作業仮説を置き、法制度の相違がもたらす当事者の行動の差異について思考実験を行うことで、以下のような仮説を提示した。
 第一に、事業再生に関しては、法的整理の開始が経営者や従業員に対して追加的にもたらす脅威を避けるために多額の内部資金を留保する傾向が生じている可能性がある。第二に、企業買収に関しては、投資家によるわが国企業の買収が困難なため、買収圧力の欠如から多額の内部資金等の状況が温存されている可能性がある。第三に、投資家の行動に関しては、株主が個別的利益を重視する等により、収益性引き上げの圧力が遮蔽されている可能性がある。第四に、市場法等のエンフォースメントに関し、その程度が弱いこと、規制当局に依存していること、証券訴訟よりも株主代表訴訟が多用されることが、リスクテイクを消極的にさせている可能性がある。

キーワード:わが国企業の低収益性、現実に用いられている法制度、インセンティブ構造、企業再建促進法、レブロン基準、コーポレート・ガバナンス規準、証券訴訟


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2012 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム