本稿では、まず財務報告に関する基本事項として、その役割は事実の開示であって予想形成は投資家の役割であること、企業にも開示の誘因があること、財務報告制度は数多い情報チャネルの1つでしかないこと等を確認したうえで、会計基準開発をめぐる基本思考の歴史的変遷をたどるとともに、それによって実際の会計基準がどのように変化してきたかを明らかにしている。そのうえで、基準開発の基本思考の1つでもある「グローバル・コンバージェンス」の台頭によって、会計基準がソフトな社会規範の性格を失い、書かれたフレームワークから機械的に導出される硬直的な体制に変化していることを指摘している。そして、このようなコンバージェンスの方向を、1)単一かつ高品質な基準、2)資産・負債アプローチ、3)公正価値測定という3つのキーワードで示したうえで、それぞれの内容を明らかにするとともに、問題点を分析している。最後に、コンバージェンスをめぐる最近の制度論議を踏まえ、日本は少なくとも連結ベースで日本基準を持ち続け、その考え方を国際基準に反映させていく態勢をとる必要があること、国際基準と日本基準が併存することに問題はないこと、連単分離や税と会計の分離、あるいは公開会社と中小企業の分離はいずれも制度的な課題を内包していることを指摘したうえで、あくまでもマーケットのプロセスを通じた下からの基準統合を進めていくという体制が必要であることを述べている。
キーワード:会計基準作りの基準、コンバージェンス、基準の画一性、資産・負債アプローチ、公正価値測定、概念フレームワーク
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