本稿では、マクロプルーデンスの視点を取り入れ、物価の安定と金融システムの安定を整合的かつ持続的な形で追及していくための中央銀行の政策運営枠組みについて検討する。今回の金融危機を契機に、グローバル経済の持続的な成長を支えるより安定した基盤を構築するために、金融システムの抜本的な改革が提言されている。ただ、より高い安定性をミクロプルーデンス規制の強化のみで実現しようとすると、金融仲介機能の効率性を低下させることにつながりうる。金融危機は、本来的に金融システムにおいて内生的な側面を有しており、ミクロ・マクロ両面での複雑なインセンティブのもとで、金融機関が共通のリスクへのエクスポージャを抱えることに起因している。この点、従来の政策枠組みには、金融システム全体として、効率性と安定性のバランスを確保するうえで不可欠な、マクロプルーデンス的な側面が十分取り込まれていなかったことが指摘されている。物価の安定と金融システムの安定を整合的かつ持続的な形で追及していくためには、金融政策とプルーデンス政策、特にマクロプルーデンス政策の組み合わせが必要とされる。そのために、本稿では、柔軟なインフレーションターゲティングの概念的な基礎として提唱されてきた金融政策に関する限定された裁量を、金融政策とマクロプルーデンス政策を包含した中央銀行の政策運営全体に拡張することを提案する。
キーワード:マクロプルーデンス政策、プロシクリカリティ、金融面での不均衡、資産価格・信用バブル、限定された裁量
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