ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2010-J-20

貨幣および貨幣類似資産の会計上の測定について
―― 貨幣はなぜ名目価値で評価されるのか ――

古市峰子

 本稿は、企業会計上、公正価値会計の適用範囲が拡大するなかで、貨幣については依然として名目価値(額面)による評価が適当と考えられている論拠を、主に貨幣の法的特徴との関係から整理・検討している。また、かかる検討から、名目価値評価の対象となる資産を識別するためのメルクマールの抽出を試みるとともに、当該メルクマールを代表的な貨幣類似資産に適用することによって、それらの資産を名目価値評価することの可否・当否について検討している。その結果、貨幣が名目価値で評価されるのは、貨幣的測定の公準および貨幣価値一定の公準があるからといえる一方で、貨幣については、(1)交換手段としての汎用性ないし流動性が極めて高いこと、(2)発行体の破綻や時の経過により価値が増減する可能性が極めて低いこと、(3)価値変動が生じたとしても名目価値で授受されることがほぼ確実であることから、そもそも名目価値評価が妥当と捉え得ることを指摘している。さらに、このように解することが可能であるとすれば、企業が(1)~(3)の要件をすべて満たす資産を、決済手段として利用することを目的に保有する場合には、当該資産が会計行為の測定単位でない場合であっても、「決済目的資産」として貨幣と同様に名目価値評価の対象となり得るとの見方を示している。そのうえで、こうしたメルクマールに照らせば、例えば普通預金・当座預金などの要求払預金は名目価値評価が可能かつ妥当といえる一方で、定期預金、小切手、約束手形、売掛金、短期貸付金、ポイントについては名目価値評価が妥当でないこと、電子マネーについて名目価値評価が妥当かどうかはその汎用性の程度に依存するとの見方が可能であることなどを述べている。

キーワード:名目価値評価、貨幣的測定の公準、貨幣価値一定の公準、資産の測定基準、物価変動会計、貨幣性資産


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