ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2010-J-12

金融資産の減損処理を巡る動向とその特徴

草野真樹

 本稿は、金融資産の減損処理を巡る動向を明らかにしたうえで、その特徴について検討するものである。まず、現行基準である国際会計基準(IAS)第39号「金融商品:認識と測定」における減損処理を概説し、(1)その基本的な考え方として、償却原価で測定される満期保有目的投資および貸付金については投資期間内における配分計画の修正、公正価値で測定され評価差額がその他の包括利益に計上される売却可能金融資産については評価の修正と捉え得ること、(2)いずれも減損の客観的証拠がある場合に減損損失が認識されること(発生損失モデル)などを指摘する。さらに、近年の金融危機に関連して批判されている、減損処理と景気循環増幅効果(procyclicality)との関係について検討する。そのうえで、2009年11月に国際会計基準審議会(IASB)より公表された公開草案「金融商品:償却原価と減損」について検討し、その特徴として、(1)公開草案ではIAS第39号と比べて償却原価の概念が変化していること、(2)提案されている減損処理(予測損失モデル)は、金融の安定性または景気循環増幅効果抑制の観点で一定の効果が期待される一方で、景気連動抑制効果(countercyclicality)がもたらされるかは必ずしも明らかでないことなどを指摘する。最後に、今後の課題として、会計の利益計算の目的に照らした公開草案の検討などを指摘している。

キーワード:金融資産の減損、発生損失モデル、予測損失モデル、景気循環増幅効果、償却原価法


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