ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2009-J-17

戦前期株式市場のミクロ構造と効率性

寺西重郎

 本稿の目的は、戦前期におけるわが国の株式市場のミクロ的な構造と効率性との関係を、1893年に施行された取引所法に関連づけて考察することにある。この取引所法は、清算取引に関してのみ取引所への取引集中義務を定めたこと、取引所の地域独占と営利性を認めたこと、仲買人による自己売買を許容し、取引所の強制賠償責任を定めたことなどで、戦前期証券市場のあり方を強く規定するものであった。取引所法が証券市場の機能に対して持った影響は、同じ年に施行された銀行条例が銀行業界に対して持った影響に匹敵する大きなものであったと思われる。効率性は以下の4点に関して検討される。第1に、株式取引所および場外市場での株式所有権の移動が十分活発に行われたか否か、第2に、株式取引所及び場外取引で決定された株式価格が過去の価格情報を十分反映する形で決まっていたかどうか、第3に、株式価格が企業の収益にかかわる公開情報を十分反映する形で決まっていたかどうか、第4に、株式取引所での売買に伴う資金需給がマクロ金融市場の需給と十分な関係を持っていたか、である。最初の2点については肯定的な結論が得られ、第4点についても次第にそうした傾向が強まったと考えられる。しかし第3点については、肯定的結論は得られなかった。これは取引所法の下で一種の逆選択による仲買人の質の劣化が進み、彼らが十分な企業情報を入手し得るだけのレピュテーションを持たなかったことにもかかわっている可能性がある。

キーワード:株式取引所、現物市場、先物取引、情報効率性、資本市場、戦前期、株式


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