ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2009-J-14

ストラクチャリングをめぐる経営者の裁量的行動と会計基準

野間幹晴

 米国財務会計基準審議会(FASB)は、2007年11月に公表した予備的見解「資本の特徴を有する金融商品」(Preliminary View: Financial Instruments with Characteristics of Equity)において、金融商品の負債と資本の区分に関する新たな考え方として基本的所有アプローチを提案した。その背景の1つとして、ストラクチャリング(金融商品の経済的実態を変えずに法形式を変更することで会計上の区分を操作すること)を防止する必要性が挙げられている。しかし、経営者による会計上の操作の余地という意味でのより広義のストラクチャリングには、FASBが懸念しているストラクチャリング以外にもさまざまな次元のものがあり得る。そして、そうしたものの一部は、FASBが提案する基本的所有アプローチによっては改善されず、別途の会計基準の整備が必要であろう。また、広義のストラクチャリングの中には、基本的所有アプローチの導入によって、かえってその機会が増大するものもある点に留意が必要である。いずれにしても、ストラクチャリングに伴う社会的コストとそれを会計上防ぐことによって得られるベネフィットとをどこで均衡させるべきかは、国によって異なる。FASBの提案は、米国固有の事情を前提としたものであるから、それを例えばわが国にそのまま導入することが適切であるかは、慎重な検討を要しよう。なお、米国において、FASBの懸念するタイプのストラクチャリングは、プリンシプル・ベースの会計基準のほうが防止しやすいとの実証研究結果が得られている。このことは、プリンシプル・ベースの会計基準へのシフトを促す要因になるかもしれない。

キーワード:基本的所有アプローチ(basic ownership approach)、ストラクチャリング、証券化、希薄化後EPS、公正価値評価


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