ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2009-J-11

非営利組織における純資産と負債の区分

金子良太

 企業会計の分野では、現在、貸借対照表の貸方区分のあり方が、負債と資本の両方の性質を有する金融商品の区分問題という形で具体的に検討されており、そこでは、資本を規定する試みがなされている。他方、非営利組織では、発生主義会計の採用により貸借対照表を作成・開示するようになってきており、その貸方において擬似的な資本(純資産・正味財産)を規定している。もっとも、純資産・正味財産の定義や負債との区分のあり方、またその内訳区分のあり方は、組織によって区々である。その背景には、貸借対照表と損益計算書の関係が希薄であること、非営利組織の種類ごとに複数の基準設定主体・会計基準が存在すること、損益計算よりも収支計算が伝統的に重視されてきたことといった固有の事情があるものと考えられる。またこうした事情ゆえに、長く非営利組織の貸借対照表の貸方に議論の焦点が当たってこなかったと考えられよう。しかしこのような事情があるなかにあっても、非営利組織の会計において、純資産・正味財産を適切に示すことによって何らかの付加価値を提供できないかを模索することは重要であると考えられる。その際には、企業会計における議論も参考に、非営利組織の財務報告の目的との関係で、純資産・正味財産の意義・機能を検討することが適当と考えられる。

キーワード:非営利組織会計、IPSAS、省庁別財務書類、地方公会計、独立行政法人会計、純資産、正味財産


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2009 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム