ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2006-J-15

戦前日本における「最後の貸し手」機能と銀行経営・銀行淘汰

岡崎哲二

 1920年代、日本の金融システムが不安定化した際、日本銀行(日銀)が特別融通を通じて活発に「最後の貸し手」(LLR)機能を担ったことが知られている。一方、1920年代の金融恐慌が伝染性のものでなく、合理的な銀行淘汰機能を持っていたことが明らかにされている。これらの結果は、この時期の日銀が一方で金融恐慌の伝染を有効に防止しながら、他方で過度の銀行救済に陥らなかったこと、いいかえれば、LLR融資に固有のトレード・オフに適切に対処したことを示唆している。
  このような見方をふまえて本論文では、日銀の取引先となることが民間銀行の経営パフォーマンスに対して与えた効果について検討した。トリートメント効果モデルによって日銀取引先であることの内生性をコントロールした場合、日銀取引先銀行は、ポートフォリオに占める高収益率資産の比率が高く、準備率が低いことが確認された。いいかえれば、日銀との取引関係によって潜在的な流動性が確保されたことが、銀行の資産運用の可能性を広げた。ただし、そのことが収益性を高めたという効果は確認できなかった。一方、日銀との取引関係が民間銀行の破産・廃業確率を一様に引き下げる効果は見られなかった。これは、日銀が、業績の悪化した銀行の経営を、流動性供給によって支え続ける行動をとらなかったとする観察と整合的である。しかし、特に金融危機が深刻であった1930年代初めまでの時期、日銀との取引関係が、ROAと預貸率の破産・廃業確率への影響を増幅する効果を有したことが確認された。これは、金融危機の下で、日銀との取引関係が、パフォーマンスの良い銀行の存続確率を選別的に引き上げたことを意味している。

キーワード:最後の貸し手(LLR)、中央銀行、金融恐慌、銀行、金融システム


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