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第23回情報セキュリティ・シンポジウム

オープン・ソース・ソフトウェア(OSS)は、ソースコードが公開され、誰もが自由に利用や修正、再配布が可能なソフトウェアです。現代では、金融分野をはじめとして、あらゆる分野でOSSがソフトウェア開発に欠かせない存在(社会インフラ)となっています。

金融研究所の情報技術研究センター(CITECS)では、「OSSのセキュリティ」をテーマとした第23回情報セキュリティ・シンポジウムを2023年3月3日にオンライン形式で開催しました。

今回のシンポジウムでは、金融分野においてOSSを安全に利用していくことを展望しました。

OSSが想定している開発の世界観や脆弱性対応の難点、金融業界における取り組み、機械学習に特有の新たなリスクなどに関して、3名の外部有識者による講演とパネル・ディスカッションを行いました。

シンポジウムの参加者は、金融機関やフィンテック企業の実務者、システム開発・運用に携わる技術者、研究者など約150名にのぼり、この問題への関心の高まりが伺われました。以下ではその概要を簡単にご紹介します。

なお、シンポジウムにおける講演の模様やパネル・ディスカッションの詳細については、準備が整い次第、下記のリンク先にて公表する予定です。また、講演資料も下記のリンク先に掲載しています。

https://www.imes.boj.or.jp/jp/conference/citecs/23sec_sympo.html

講演1. OSSの世界観とセキュリティ

講演1では、真鍋敬士氏(JPCERTコーディネーション・センター[1]理事)より、OSSの世界観とその背景にある基本的な考え方、OSSの社会的位置づけの変遷、脆弱性対応の一連の流れと難所などについて、実例を交えながらご紹介いただきました。
真鍋氏によれば、20世紀におけるソフトウェアは、社会の「資源」として捉えられていましたが、OSSはその一部に過ぎませんでした。これが、21世紀になると、さまざまなOSSが情報システムに広く組み込まれ、社会インフラの「担い手」になりました。

また、OSS同士やOSSと他のソフトウェアとの依存関係がますます複雑となる中、脆弱性対応はより困難化している、との説明がありました。



講演2. OSSのセキュリティ対策~金融ISACの視点から~

講演2では、鎌田敬介氏(金融ISAC[2]専務理事)より、金融ISACの活動、OSSの特性を踏まえた脆弱性対応の難点や留意点、対策技術や海外の動向などについてご紹介いただきました。
金融ISACでは、金融業界のサイバー・セキュリティ分野における「共助」の実現を目標の1つとして掲げています。鎌田氏からは、一般論として、ソフトウェアの脆弱性に関する情報が公表された際に、個々の金融機関がその脅威の大きさを判定して迅速に対応するのは容易でなく、金融機関間における共助が重要になるとの説明がありました。

また、普段から自社の情報システムでどのようなOSSを利用しているかを把握している金融機関は多くないとの報告がありました。

OSSの利用が不可避となった現在、金融機関は、OSSの脆弱性を突いた攻撃を行うプログラム・ソースコードが流通しやすい状況にあることを意識して脆弱性対応を行う必要があるとの指摘がありました。その対応にあたり、未だ発展途上であるとしつつも、ソフトウェアの構成管理表(SBOM)やOSSの安全性指標を活用する考え方が登場していることが紹介されました。

【次ページ】機械学習に関する論点とパネルディスカッション

講演3. 機械学習とOSSのセキュリティ

講演3では、小澤誠一氏(神戸大学教授)より、機械学習モデルの潜在的な能力と脆弱性、開発・運用プロセスとこれに付随する脅威、機械学習モデルに特有のセキュリティ・リスクなどについてご紹介いただきました。
機械学習モデルの開発は、開発環境のプラットフォーム上で行われるのが一般的ですが、その構成要素であるライブラリやフレームワークには多種多様なOSSが含まれています。また、機械学習モデルの訓練には、誰でもアクセス可能(オープン・アクセス)なデータも利用されています。

小澤氏によれば、こうした機械学習モデルのセキュリティを確保するうえでは、プログラム・ソースコードの脆弱性に加えて、訓練に用いるデータやモデルの汚染を脅威として捉えることが求められます。

特に、データの汚染は、機械学習モデルに不正な機能を付加するなど、機械学習に特有のリスクをもたらす可能性に留意する必要があるとのことです。

パネル・ディスカッション

パネル・ディスカッションでは、金融機関におけるOSSコミュニティとのかかわり方、脆弱性対応における自助と共助の役割分担、機械学習モデルのオープン・アクセス性に係るリスクとその対策などについて、3名のパネリスト(真鍋氏、鎌田氏、小澤氏)に活発にご議論いただきました。

金融機関とOSSコミュニティとのかかわり方については、ユーザ企業として外部ベンダーに対価を支払ってOSSの開発・保守を行うこともOSSコミュニティの活動の一環ともいえる、との考え方が提示されました。

また、脆弱性対応における自助と共助の役割分担については、脆弱性や脅威に関する情報収集や収集した情報の解釈では共助(金融機関間の助言・協力)によりカバーできる範囲が広いが、セキュリティ対策の基本は自助(自社による対応)である、との見解が示されました。

さらに、機械学習モデルに特有のリスクについては、攻撃手法・対策技術のいずれもが研究開発の途上にあるため、データのサプライチェーンの管理に加えて、モデルの用途や利用環境を制限することによりリスクの低減を図ることが有用である、といった意見が聞かれました。




Notes

脚注番号をクリックすると、本文に戻ります。

  • [1] JPCERTコーディネーション・センターは、日本において情報セキュリティ対策の支援(情報収集・分析、分析結果の公表、関係組織の調整等)を中立かつ技術的な立場から行う一般社団法人。
  • [2] 金融ISACは、日本の金融機関がサイバー・セキュリティに関する協働活動を行う一般社団法人。