金融研究 第9号 (1981年9月発行)

わが国為替市場の効率性と最近の円レート変動の諸特徴

瀬尾 純一郎

 主要先進国が変動相場制に移行して以来約8年間を経過したが、この間の経験を振返ってみると、為替レートは必ずしも従来の理論で予想されたようには動いてこなかった。このため、従来の理論と現実の為替レートの動きとの乖離を埋めるために、近年、新たな角度からの分析努力が重ねられており、わが国においても、最近の円レート変動を巡って様様な形で議論がなされている(注1)。本稿は、そのような試みの一つとして、主に市場の効率性という観点から、最近の円レートを巡る主要な論点について、サーベイ的に検討を加えたものである。
 「効率的市場」仮説は、元々、株価や債券等金融資産の価格変動を説明する理論として発展して来たが、最近では、為替レートも株価同様資産市場(財市場ではないという意味での)で決定される変数であるという見方が有力になってきたことと相まって、このような立場から為替レートの動きを説明しようとする試みが盛んになってきている(注2)。事実、こうした視点から最近の円レートの動きをみると、その特徴のいくつかの側面がかなり良く理解し得るように思われる。
 以下、2.では先物円レートと直物円レートの関係を調べることにより、わが国為替市場が効率的であるとの仮説を棄却できないことを示す。3.では2.での実証を前提として、最近の円レート変動の諸特徴について、主に、市場の効率性という観点から考え、その特徴点として次の3点をとりあげる。
 (1)円レートの短期変動:円レートの短期変動が極めてvolatileであり、それが効率的市場特有の現象であることを述べる。
 (2)円レートと内外比価:円レート変動と物価変動の関係について考える。円レートは短・中期的には日米比価(=購買力平価)の水準からかなり乖離しているが、これは為替レートと財・サーヴィス価格を決めている市場の性格の相違に依るところが大きいと思われる。
 (3)円レートと内外金利:円レートと同様に資産市場あるいは効率的市場で決められているとみられる金利と円レートとの関係について検討する。ここでは、まず、わが国為替市場で金利裁定の関係が成立していることを実証した後、両変数の変動にとってインフレ期待が重要な役割を果していることを説明する。さらに、公定歩合変更の円レートへの影響は、それが予想されていたか否かで大きく変ってくることを指摘する。
 最後に、4.で、上記分析から得られた結論を要約する。


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(注1)最近の円レートを巡る議論としては、天野〔1〕、小宮・須田〔4〕、新開〔7〕、鈴木〔9〕等を参照。
(注2)例えばFrenkel〔24〕、Frenkel and Mussa〔28〕等を参照。本稿もこの両論文に負うところが大きい。


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